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コラム
ダイバーシティ&インクルージョンの
知識と実践方法に関するコラム
更新日:更新日:2021年11月17日
ダイバーシティとインクルージョンの違い
目次

1. ダイバーシティとインクルージョンの違い

前回までの記事で、ダイバーシティとは何か、インクルージョンとは何かについて、それぞれ詳しく述べてきました。今回は、ダイバーシティとインクルージョンでは何が違うのか、その「違い」に着目して考察していきます。

1.1 視点の違い

企業組織、あるいは人材開発領域において“ダイバーシティ”と言うとき、多くは「(組織・チームなどの)構成員の多様さの度合い」を意味します。構成員としてどんな人々が存在しているのか、ということです。これは、組織やチームの人員構成に関する観察的な視点です。組織やチームを観察する立場や状況にある人(構成を決める、評価する、検討するなどの目的で)の視点と言ってもいいと思います。

一方のインクルージョンは、以前の記事「インクルージョンとは」で述べた通り、職場において各個人が①組織やチームへの帰属感、②個々の多様性の発揮(自分らしさの活用)を通した価値貢献感を感じているという“人の感覚”です。各人の個性や経験に由来する貢献がほかの構成員に認知され、仕事に能動的に関われていると実感しながら働いている状態です。チームの中での互いに対する態度(リスペクトなど)や行動特性(エンパシーの発揮など)、コミュニケーションの仕方(相手の傾向性に配慮するなど)、つまりチームとしての機能の仕方を、多様性の活用に重きを置きながら見る視点と言えます。

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1.2 インクルージョンへのシフトが進む

以前の記事の中で、多様性が業績やイノベーションに貢献するという調査結果を紹介しました。多様性により独創的なアイデアが聞き入れられる環境が生まれ、イノベーションへの道が開かれやすくなると考えられています。

数多くの企業でアクション・ラーニング(プロジェクト型研修)の設計とファシリテーションを請け負う中、2014年頃を境に、圧倒的に「イノベーション」「価値創造」を目的としたご依頼が多くなりました。世の中にはノウ・ハウ論やフレームワーク論だけを用いた研修設計が多い中、当初から私は、「多様性を基軸(レバレッジ)にしたイノベーター育成」ということを提案・実施してきました。ビジネスにおける多様性の構造を紐解き、自分の内なる多様性、チームメンバーの持つ多様性をまず最大活用することから始めます。さらには世界のカルチュラル・ダイバーシティを学び、自分には思いもよらない考え方・発想の仕方を借りてくるテクニックを身に付けます。それが自在にできるようになってから、イノベーションや価値創造のノウ・ハウ(Know-how)、実際にイノベーションを達成した人物の行動様式に倣うドゥ・ハウ(Do-how)を習得していきます。研修受講者チームの中に、インクルージョン状態を作ってから本題に入ることで、そのアウトプットが格段に向上します。

2. インクルージョン実現フェーズへ

企業にとって人員構成の多様性が重要であるという考えはもう十分に浸透し、次のフェーズ、インクルージョン実現へと向かっています。

2.1 創造性への寄与

これまで少なくとも過去8年に渡り、多様性を基軸にした価値創造の教育を実施してきた結果、例外なく定量的かつ明確な成果が出ました。どんな業界でも、どんな職種でも、どんな階層でも、受講者は新しい価値創造のアイデアにたどり着きます。しかも、メンバー同士の多様性の担保度合が高いほど、チームの量的・質的なアウトプットは高くなる傾向があります。多様性の活用、インクルージョン状態を作ると、明らかに価値創造につながりやすいのです。このような実感が、企業において更にインクルージョンへのシフトが進む背景にあるのだと思います。

なお、ここでいう多様性とは、単なる表層的な多様性ではなく、認知的な多様性のことです。新しい価値創造を念頭に置くとき、多様性は必ず、好成果をもたらします。ただしその前提として、多様性の効用を正しく知り、活用するテクニックを身に付けることが必要です。

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2.2 生産性、効率性への懸念について

多様性は大事だろうが、ビジネスのプロセスを妨げるのではないか。生産性や効率性が落ちるのではないか。そのような懸念をもつ人もいます。多様性の考え方において私が最も大切にしているのは「ものごとは“あれかこれか”ではなく、実際には“あれもこれも”なのだ」ということです。人間はそんなにけちけちしたものではなく、ある一定の上限がある中での配分を決めているわけではないと思います。パイ自体が広がっていく。だから、あれもこれも取り入れてシナジーを生むことは組織にとって可能であるというスタンスです。人と組織のキャパシティ自体が大きくなっていくこと、それが成長です。

少しの時間を割けば、たった1日の研修でも、多様性について正しく知り、自らの内なる多様性、他者の多様性活用の観点を持つことは可能です。正しく知らないものを使おうとしても、その本来の効果効能は得られません。扱おうとしているものの本質を正しく知ることに、ほんの少し、時間を使ってみて下さい。多様性とビジネス目標は、決して、二律背反の関係性ではありません。

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3. ダイバーシティ&インクルージョン基軸の人材育成

人材育成、特に教育研修のご依頼には、数年ごとに明らかな傾向性が見て取れます。私は、多様性教育の中でも比較的限られた領域、主にグローバル人材育成(多文化チームのリーダー、文化を越えて働く人の異文化対応、グローバル英語)、リベラル・アーツ(仕事や暮らしの土台である世界の成り立ちと価値観に関する教養)、認知的多様性の活用と価値創造、といった領域でずっと仕事をしてきました。2010年頃からはグローバル人材の育成というテーマ、2016年頃からはリベラル・アーツのテーマが多くなり、2020年を境に、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)テーマでのご依頼が多くを占めるようになりました。その理由を考察します。

3.1 教育施策に一貫性を持たせる

ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)というのは、あらゆる属性を含む上位概念です。多様性の活用、インクルージョンの実現がビジネス成果の向上につながると分かった以上、この概念の外にいる従業員はいません。すべての人を含む、まさにインクルーシブな教育主題の設定の仕方になります。

そこで、ダイバーシティ&インクルージョンの大きな柱の中で、それぞれの属性(職種、階層など)に適した教育研修を設計していくのが潮流となっています。 例えば、各階層の代表者が受講する研修(いわゆる選抜型)では価値創造をテーマにし、経営層向けの研修ではダイバーシティ・マネジメントをテーマにする。国際部門の社員にはカルチュラル・ダイバーシティを中心にする一方、新人向けには世界全体を見る目を養うグローバルマインドセットを中心にする、という具合に、共通基盤を持ちながら、対象者によって内容構成の比重を変えていくと、ベクトルの統一をはかりながら各対象者に必要な重点教育を効果効率的に実施できます。

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3.2 教育効果の有機的な広がり

上述した通り、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)というのは上位概念なので、教育効果の有機的な広がりを自然と達成することができます。

リベラル・アーツとは、世界の成り立ちを学ぶことですが、その本質は、個人軸ではなく他者とどう関わるかの態度形成にあります。自分とは異なる規範に従って行動する人々を理解するだけの心の自由(リベラル)度を持つことが目的です。その意味で、単なる自己能力開発とリベラル・アーツは異なります。多様性について正しく知っていくと、自然とこうした感覚(他者の違いをあるがまま理解しようとする、エンパシースキル)が養われます。リベラル・アーツへの興味関心も喚起され、学びへの能動的な姿勢につながります。

グローバルマインドとは、世界のありようを知り、その一員として活躍するための「心のパスポート」であり、具体的にはオープンマインドと異なる考え方への受容的態度が含まれます。ダイバーシティ&インクルージョンという上位概念を先に学ぶことで、カルチュラル・ダイバーシティ(文化的多様性)に由来する異文化間の課題解決は、数ある多様性対応の一つの種類であるという感覚を持ちます。すると、おのずとそれ以外の種類の多様性への興味関心も高めることができます。

このように、ダイバーシティ&インクルージョンを大きな柱として教育施策全体を設計していくことには、教育効果を有機的に拡大していく効果があります。

執筆者
人材開発コンサルタント・ファシリテーター
株式会社GREEN 創業者・代表取締役 三森 暁江

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