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ダイバーシティ&インクルージョンの
知識と実践方法に関するコラム
更新日:更新日:2021年11月17日
インクルージョンとは
目次
インクルージョンという言葉は、ダイバーシティ(多様性)とセットで使われる頻度が高くなってきています。この言葉は何を意味するのでしょうか?ここでは、インクルージョンとは何かについて、主に組織における人材開発施策、教育研修の観点から考察していきます。

1.インクルージョンとは

インクルージョン(Inclusion)の主な訳語には、「含めること(包含・包括・含有)」「含有物・内包物」、そこから転じて「(社会的な)一体性、受け入れ」などがあります。

広義のインクルージョンには、社会学的視点、教育学的視点など、いくつかの異なる定義があります。その一例は次のようなものです。
 ―社会学的視点(ソーシャル・インクルージョン):主に社会的に孤立しそうなグループや個人(例:単身高齢者、非正規労働者、ワンオペ育児中の親など)への支援を指すもの。
 ―教育学的視点:個別事情による特別な教育ニーズ(例:障がいがある、海外から来たなど)への対応をしながらも、区別のない一元的な教育の実施の必要性を示すもの。

ほかに経営学的視点でのインクルージョンがあり、人材開発で使われる際のインクルージョンの定義はその範囲です。詳しく見ていきましょう。

1.1 人材開発におけるインクルージョンの概念

私自身が実施する研修や講演の場においては、企業組織におけるインクルージョンの意味をこんなふうにお伝えしています。「組織の構成員を、それぞれの属性による分類や対立構造で見るのではなく、全体として一つのユニットの中の個性をもった存在として捉えること」。それには、「こちらとあちら」の発想から抜け出し、より俯瞰的な位置から、自らを含めて観察するという、視点(視野、視座)の転換も含まれています。

経営学分野におけるインクルージョンの様々な定義を紐解いていくと、次のようなキーワードが見えてきます。
<インクルージョンのキーワード>
個々の能力が発揮されている、集団内においてメンバーとして扱われ受け入れられている、個人が組織の重要なプロセスに関わっている実感がある、職場への帰属感がある、価値貢献の実感がある、帰属感と自分らしさの発揮が同時に満たされメンバーとして尊重されている、など。

総じて、人材開発領域におけるインクルージョンとは、職場において、各個人が①組織やチームへの帰属感、②個々の多様性の発揮(自分らしさの活用)を通した価値貢献感を持つ状態と言えるでしょう。その実現のためには、インクルージョンを目的とした教育研修を、適切な内容とプロセスで設計する必要があります。

図:インクルージョン実現状態における個々人の感覚

1.2 ダイバーシティからインクルージョンへ

ひとつ前の記事で、ダイバーシティとは何かについて述べました。ダイバーシティとは「相違(点)や多様(性)が存在すること」でした。※詳細は記事を参照。
多くの組織においてダイバーシティの実現が進んできた今、課題はインクルージョンにシフトしてきています。すなわち、多様な構成員それぞれが、帰属感と自分らしさの発揮を通した価値貢献実感を持つにはどうしたらよいかという問いです。

守島基博氏の著書『全員戦力化』によれば、インクルージョンという言葉は「単に多様性の増大や受容だけではなく、企業にいるすべての従業員がもっている能力や経験が認められて、仕事に参加できるという意味で使われることが多くなっている。」とされます。「なかでもチームに求められる成果がイノベーションである場合、異なる価値観や考え方を融合し、一段高いレベルへと昇華することが求められる。」
(引用:全員戦力化 戦略人材不足と組織力開発 守島基弘著 p153)

前の記事の中でダイバーシティ・マネジメントについて触れましたが(詳細は記事を参照)、マネジメント目的として新しい価値創造やイノベーションを置く場合は特に、インクルージョンの理解と達成が必須です。

2.インクルーシブ・リーダーシップ

では、インクルーシブ・リーダーシップ、あるいは、インクルーシブなリーダーとは、どのようなものでしょうか。一言でいえば、チームに求められる成果目標(特に新規価値創造やイノベーション)を達成するために、チームに存在するあらゆる多様性を引き出し、活用し、価値あるものに昇華できるようなリーダーシップのあり方です。リーダーシップとは、影響力の発揮(インフルエンシング・スキル)と言い換えられますから、周囲の人がそのように動くよう、戦略的かつ積極的に働きかけをすることや、自らが行動規範を体現するということも含まれます。

リーダーシップは、行動選択です。つまり、置かれている状況や達成目標によって、最適な行動を選択するというテクニカルスキルであり、誰にでも習得可能な能力です。
とくに価値創造を重視する状況下においては、インクルーシブなリーダーシップスタイルをできるだけ早期に身に着けておくことが、必須になります。

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2.1 心理的安全性

メンバーが自らの個性を発揮することを通して貢献するためには、その前提に心理的安全性を必要とします。人材開発領域における心理的安全性とは、一般に、他のメンバーからの反応に怯えたり臆することなくチーム内で個性を発揮できている状態、と定義できます。多様な視点を引き出し活用するためには、心理的安全性を先に担保することが必要です。

そのためには、メンバー全員がダイバーシティとインクルージョンに関する正しい知識と共通認識を持ちあわせること、ビジネスゴールを共有すること、そして、リーダーがインクルーシブなあり方を常に言動で示す一貫性、言行一致性(インテグリティ、Integrity)を持つことが求められます。

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3.インクルージョンの実現

実際にインクルージョンを実現するには、どのようなステップで何をすればよいのでしょうか。ここからは、インクルージョンの実現を目指す教育研修設計の具体論に入ります。

3.1 インクルージョンの土台~共通言語形成~

人材開発施策、特に教育研修の主題としてインクルージョンを取り扱う場合には、まず初めに、共通言語の形成、言い換えれば全員の拠り所や土台となるものを持つことをお勧めします。

ひとつ前の記事で、ビジネスにおける多様性の構造を示しました。
なかでも、個人の価値観とその傾向の多様性は、全世界共通のユニバーサルな指標であり、メンバー間に対話のきっかけをもたらします。価値創造の鍵を握るのは、「対話」です。多様性を価値あるものと認め、自分とは異なる傾向を持つ相手の視点を活用する。そのためにはメンバーの多様性を可視化しましょう。

構成員の多様性が一目でわかるマッピング(“チーム・マンダラ、Team Mandala”)は、チームに共通言語をもたらし、インクルージョンの土台としてきわめて有効に機能します。

図:構成員の多様性が一目でわかるマッピング

オンラインで質問に答えるだけで、きわめて精緻な分析結果をお出しできます。質問票は全世界からアクセス可能。世界の主要言語をカバーしており、母語または最も得意な言語で回答できます。所要時間約30分。ワークショップとセットでの提供も可能です。
チームの多様性の可視化に。対話のツールに。インクルージョンの土台に。また、教育研修におけるグルーピングにも活用できます。多様性あるグループ構成であるほど、そのアウトプットは高くなります。
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もし、文化的多様性の度合いが高いチームの場合には、全世界を「文化的類似性」つまり「文化圏」としてまとめた世界地図がインクルージョン形成に一役買います。チーム内の全員が、頭の中に「文化的価値観の見取り図」を持つことができます。

文化的価値観の分布による「文化圏の世界地図」

文化圏の分布、各文化における中心的な価値観、その形成過程を知ることで、多様な考え方に対する理解とリスペクトはもちろん、それらの活路が見えてきます。

文化圏の世界地図で学ぶ、カルチュラル・ダイバーシティ。働く人のためのリベラル・アーツ入門

3.2 インクルージョン実現のためのドゥ・ハウ

インクルージョン実現を目的とした教育研修の具体的な展開は、次のようなステップになります。これら施策の同時展開または段階的展開をデザインします。

1.関係者全員がダイバーシティとインクルージョンに関する正しい知識と共通理解を持つ(知識付与型研修/階層不問)

2.インクルージョンの土台となる共通言語を形成する(個人の多様性/文化の多様性 ワークショップ型研修/階層不問)

3.ダイバーシティ・マネジメントとインクルーシブ・リーダーシップの理解と実践(リーダー層向け研修プログラム)

4.インクルージョン実現を通してダイバーシティをビジネス成果につなげるための具体的行動実践(代表メンバーによるアクション・ラーニング型研修)

これらの要素を、各組織の現状とゴール、力点、制約条件等を鑑み、最適な方法で組み合わせることで、具体的な人材開発施策、教育研修プログラムの開発と実施が可能になります。

ダイバーシティ&インクルージョン、グローバルマインドを基軸にした教育研修

執筆者
人材開発コンサルタント・ファシリテーター
株式会社GREEN 創業者・代表取締役 三森 暁江

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