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コラム
ダイバーシティ&インクルージョンの
知識と実践方法に関するコラム
更新日:2021年11月15日
多様な人材とは
目次

1. 多様な人材とは誰のこと?

「多様な人材とは、誰のことですか?」と聞かれたら、何と答えますか?多くの教育研修の現場で、受講者や、研修依頼者の方々にこの問いを投げかけると、一瞬のとまどいが見られます。ここに、ダイバーシティ(多様性)活用、そしてインクルージョンの実現を阻むひとつの壁があるように思います。

1.1 マジョリティ(主流)人材とマイノリティ(周辺)人材

企業組織における多様性施策に関する話を聞いていると、「マジョリティ(主流)」人材と「マイノリティ(周辺)」人材があって、多様性イコール、マイノリティ(周辺)人材の活躍、といった文脈で語られることが往々にしてあります。ちなみに、「マジョリティ(主流)」/「マイノリティ(周辺)」の属性を挙げてもらうと、男性/女性、健常者/障碍者、国民/外国人、新卒入社/中途採用、といった観点がよく出てきます。

企業におけるダイバーシティ(多様性)関連施策の始まりは、1960年代米国の公民権運動、続くアファーマティブ・アクション(格差是正目的でおこなわれた特定カテゴリーの人々への施策の充実)に端を発しますが、それから半世紀以上を経た現在、もっと本質的な意味でのダイバーシティ・マネジメント、つまり、「属性に関わらず個人を活かすこと」の方向にシフトしてきています。

ダイバーシティ(多様性)施策を考え始めるときには、対立構造でとらえず、全体の中で様々な属性を持つあらゆる個人が組織への帰属感と独自の個性の発揮を両立する(=インクルージョンの達成)という目線で考え始めることをおすすめしています。
最初に、全員の共通認識や共通言語を持つための具体策を取り入れることが重要です。

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1.2 「多様な人材」側の目線

ダイバーシティ(多様性)関連の教育研修のクラスには、女性や外国籍社員、中途採用の方々など、多様な背景を持つ側の方々も参加されます。そうした場では、いわゆる「多様な人材」と見なされている側の人たちの、率直な気持ちをお聞きすることがあります。

あるとき、日本企業で働く外国籍社員の方からこんな所感を聞きました。 「自分は当然、多様性人材として期待されて採用されただろうし、その役割を認識し、行動もしてきた。その点に関して正当に評価もされてきたと感じている。ただ、今日を境に、自分は多様性を分かっている、という態度を少し改めたいと思う。なぜなら、多様性は、特別な人が発揮するだけのものではないとわかったので。周囲のすべての人の多様性にあらためて注意を向けてみたいと思います。参加前より、多様性について持っていた自信が、いい意味で下がりましたよ(笑)」

これは、いわゆる「マジョリティ(主流)人材」である方々から寄せられる多くの所感と対を成します。
「自分も多様性の一部であるという自覚ができました。しかも、自分の内部にさらに内なる多様性があることを、再認識しました。誰かに期待するものではなく、能動的に発揮したり獲得したりできるという点も忘れないでおきたいところです。多様性が身近で持っていて当たり前のものに変わりました。」

誰かほかの人が頑張ってくれるもの、という感覚を手放せたときから、一人一人の中でインクルージョンの実現が始まっています。

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2.ダイバーシティ(多様性)活用におけるビジネス視点と人間的視点

あなたにとって多様性とは、ビジネス目的に沿って、職場に限って、部分的に取り入れられさえすればいいものですか?

2.1 多様な相手を「同僚」限定で欲しいのか、「隣人」になるか

多様性教育を専門とする私たちのチームは、それこそ多様性の見本市のようなものです。初期の頃から一貫して、異なる人種、異なる肌の色、異なる宗教、異なる母語を持つ人間の集団でした。さらには、個人的な傾向性においても全く重なるところなく、様々なライフスタイル、信念を貫いています。これは事例としては極端なのでしょうが、そんな長年の経験から実感することがいくつかあります。

人にはそれぞれ、本当に多様なバックグラウンドがあります。ですから、個人的な背景に一方的に深入りすることはタブーですが、相手から話を振ってくれたときには、あるいは、自然と個人的な話ができる関係性までたどり着けたら、会話の機会を逃さず、さらに相手を知ろうとすることは、必要です。この仕事を始めてから、日本語の「無駄話」という単語を使わなくなりました。多様性を念頭に置くのなら、すべての会話が相手を知る糸口になり、意味のあるものに思えました。

もし、ただ同僚として多様性を活用できればいいかと問われれば、それだけではないと答えます。多様性とは、自分の都合で「良いとこどり」をすれば済むわけではないと思います。ビジネスの視点を超えて、より人間的な視点を併せ持つべきだと、私個人は考えています。隣人としての覚悟、というと大げさですが、それは、ほんの少しの「思いやり」の余地によって達成できるものです。たとえ自分で選んだ道でも、予想以上に険しいこともあるし、誰かの助けが必要な時がある。そのことを察知できるだけの、目配り・気配り・心配りの意識を皆が少しだけ持てたら、多様な相手を同僚としても、隣人としても、大切にすることができます。

2.2 「エンパシー」の重要性

ビジネス視点で多様性を語るとき、欠かせないのは「エンパシー(Empathy)」という概念です。

エンパシーは、日本語で「共感」と訳されていますが、これは、「同意」とは全く異なります。エンパシーの正確な意味は、同意しようがしまいが、相手がそうであると理解することです。私たちは、これを、「スキルとしての共感」とお伝えしています。この表現によって、腹落ちする人が多いです。あくまでスキルとして、自分をわきに置き、いったん相手を受け止めてみることです。多様性時代を生きるのに欠かせない、必須ビジネススキルのひとつです。

企業研修におけるダイバーシティ(多様性)教育のゴールは、多様性に関する正しい知識とスキルに加え、エンパシーを持ちながら、多様な個の力を結集し、世の中に新しい価値を提供できる人材を育成すること、また、そうした人材の層を厚くすることにあります。

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執筆者
人材開発コンサルタント・ファシリテーター
株式会社GREEN 創業者・代表取締役 三森 暁江

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