COLUMN
コラム
ダイバーシティ&インクルージョンの
知識と実践方法に関するコラム
更新日:2021年11月15日
ダイバーシティ(多様性)とは
目次
いま、企業の人材育成において、ダイバーシティ(多様性)がこれほど注目されるのは、なぜでしょうか?ここでは、ダイバーシティとは何か、ビジネスの視点と人間的な視点を通して考察していきます。

1. ダイバーシティ(多様性)の種類と分類

ダイバーシティ(Diversity)という言葉の意味を日本語で言うと、「相違(点)や多様(性)」です。その定義については、社会学、教育学、経営学といった分野で様々な見解が混在しています。ここでは、主にビジネスの領域、あるいは企業における教育研修の主な対象となるダイバーシティ(多様性)の種類と分類について、まとめます。

1.1 認知的な多様性と統計学的な多様性

近年、特に2010年代後半から2020年代にかけて、一層注目されているのは「認知的多様性」(Cognitive Diversity)と呼ばれる領域です。あらゆる集団には、その本質として、「同質化」しようとする力が備わっていると考えられています。ある集団の構成員の肌の色や性別、出身国が異なるからといって、本当に各自が違った物の見方、考え方ができているとは限らないということです。そのため、目に見えやすいタンジブルな(Tangible)違いではなく、ぱっと見ただけではわからないインタンジブルな(Intangible)部分に由来する、個々人の物の見方や考え方の違い、つまり「認知的な多様性」を意識的に見ていくこと、及び、そのための具体策としての方法論が必要になります。

「統計学的な多様性」(Demographic Diversity)とは、性別、人種、年齢、信仰の違いなど、人口統計の分野で使われる区分によるものです。性別、人種、年齢などは、客観的な違いです。一方、信仰は、個人のアイデンティティ(Identity=自分をどのように認識するか)という内面的・主観的な側面も含んでいます。

1.2 表層的な多様性と深層的な多様性

人種、性別、年齢層といった、可視的な違いによる区分を「表層的な多様性」(Surface-Level)、それ以外の不可視な違いをまとめて「深層的な多様性」(Deep-Level)とする定義も存在します。違いをもたらす要素が「可視的」(Visible)であるか否かで分けるやり方です。 「可視的」な違いは、上述した、目に見えやすい(Tangible)違いとほぼ同意です。 「不可視」な違い(=「深層的な多様性」)には、例えば、生い立ち、性格、価値観、キャリアといったものが挙げられます。

1.3 先天的な多様性と後天的な多様性

少し前に、組織内多様性の効果に関するひとつの興味深い記事がありました。 (“How Diversity Drive Innovation”, HBR, December 2013)

企業内のリーダーに、先天的な多様性が三種以上、さらに後天的な多様性が三種以上存在する場合を、「二次元多様性を有する」と定義して実施された調査結果です。
それによると、
二次元多様性を有する企業は、他社をイノベーションでも業績でも上回る。
 ・自社の市場シェアが前年より成長したと報告する率が45%高い
 ・新市場を開拓したと報告する率は70%高い 
という結果が出たとのこと。多様性により独創的なアイデアが聞き入れられる環境が生まれ、イノベーションへの道が開かれやすくなると考えられています。

ここでいう「先天的な多様性」とは、生まれつきの特性(例:性別、民族性、性的指向など)を指します。一方、「後天的な多様性」とは、経験から獲得した特性を指しています。(例:外国での職業経験から得た異文化への理解、異性対象商品の営業経験から得たジェンダーの知識など)

多様な視点を持つことについて、他者頼みになるだけでなく、自分で獲得することもできるとするこの考えは、私たちが提供する教育研修施策においても大切にしている点です。一人一人が多様なキャリアを形成できる社会であること、また、多種多様なキャリアを持つ人材を登用し活用できる企業が増えていくことが必要です。

1.4 カルチュラル・ダイバーシティ(文化的多様性)

私たちは、多様性教育の中核に「文化圏」という独自の区分を置いています。この世界には現在、197の国家が存在しますが、国家を超えて広い地域で類似傾向を示す社会的価値観によって世界を区分しています。多様性を学ぶとき、「違い」と同時に「類似」に注目することで、世界全体の文化的多様性の見取り図を頭の中に素早く持つことが可能になります。

文化的価値観の分布による「文化圏の世界地図」(おなじ色の地域には共通点がある)

この「文化圏」の地図を使って、文化的価値観がどのように形成され、どのように分岐していったか、現在の世界各地に生きる人々の、暮らしと仕事の土台となる価値観を短時間で把握することが可能になります。自分の所属する文化圏とは想像を超えて圧倒的に異なる各地の文化的価値観の背景を知ることで、相手のあり方を尊重する態度が形成されます。あらゆる多様性教育の第一段階として、まず一人一人の心の間口をぐっと広げて新風を吹き込む、世界規模のカルチュラル・ダイバーシティ(文化的多様性)の学びが高い効果を上げるのです。

カルチュラル・ダイバーシティ(文化的多様性)を理解すると、グローバルマインドの開発(グローバル・マインドセット)、リベラル・アーツ(世界の成り立ちに関する教養)、異文化コミュニケーション、文化を越えて働く際の心構えとスキル、多様な人材を抱えるチームにおけるリーダーシップとチームビルディング、世界市場マーケティング(グローバル・マーケティング)、世界のお客様へのおもてなし(グローバル・ホスピタリティ)など、現代を生きるビジネスパーソンにとって欠かせないスキル群を支えるしっかりとした土台ができます。

カルチュラル・ダイバーシティ(文化的多様性)を文化圏の世界地図で学ぶプログラム

1.5 個人の多様性と内なる多様性

心理学に、「ペルソナ(Persona)=仮面」という用語があります。一人の人が持ちうる複数の“顔”のことを指します。人は元来、多面的なものであり、また、日々同じではありません。毎日の経験によって成長し、その考え方や物の見方も変化します。同じ一日の中にあっても、「素」の自分でいる時間、「社会的な」自分でいる時間、そして、「強いストレスにさらされている」自分など、ペルソナは常に流動的で変化しています。

こんなふうに、誰もが自分の中に「内なる多様性」を持っています。ダイバーシティ(多様性)というと、どうしても自分をわきに置き、自分以外の他者に求めるものという感覚を持ちやすいのですが、内なる多様性に目を向けることも大切です。自分自身を観察の対象外に置かず、内なる多様性を認めることで、多様性の受容度が高まり、異なる他者それぞれのあり方を尊重できるようになっていくからです。

自分自身の内なる多様性、そして異なる他者が持つ多様性は、組織力としての価値創造活動の源泉です。メンバー個々の多様性(Individual Diversity)を洗い出すと、自分と他者の傾向性、それぞれの強み、それぞれのクセ、そして協働して価値を生むために互いに工夫すべき点が見えてきます。個人の多様性をビジネス成果につなげるには、いちどそこに存在する多様性を洗い出し、可視化するプロセスが必要です。

精緻な診断から個人別分析結果を出して他者の多様性と内なる多様性を知るプログラム

1.6 ビジネスにおける多様性の構造

ここまで、ダイバーシティ(多様性)の種類と分類について、ビジネスシーンで有効な主な切り口を紹介してきました。

下図は、ビジネスにおけるダイバーシティ(多様性)の構造を、氷山モデルで示したものです。

ビジネスにおけるダイバーシティ(多様性)の構造

多様性を大きく「水面下」「水面ぎりぎり」「水面上」に分けて考えることで、各組織のビジネス現場における主要なダイバーシティ(多様性)課題に取り組みやすくなります。
特に、「水面下」の部分をはじめに学ぶことが有効です。まず、個人ごとの多様性を知ること。次に、世界スケールで文化ごとの多様性を知ること。皆が等しく違いを持っている、そしてそこにはそれぞれの背景があるーこの事実を皆が知ることで、組織内外のあらゆる多様性をビジネス成果につなげるための道が見えてきます。こうした共通理解の広がりが、心理的安全性の形成につながります。

1.7 ダイバーシティ・マネジメントとは

組織における構成員のダイバーシティ(多様性)をマネジメントすることを、総じて「ダイバーシティ・マネジメント」と言います。

マネジメントは目的的におこなわれるものです。現状、多くの企業組織のマネジメント目的の一つに、新たな顧客価値の創出、が挙げられます。
特に、ニュー・ノーマルと呼ばれる生活様式が世界中に一気に広がった昨今、ビジネス環境がこれまでにない変化を遂げる中で、新たな視点を持って価値創造に取り組むことは、企業の生命線とも言えます。

多様な人材の多様な視点や発想を必要とする価値創造プロセスにおいて、「高い集合知の発揮」の強化策が必要です。個人個人の能力開発だけでなく、組織内のメンバーが一定の意識を共有して初めて発揮されるのが集合知です。

下図は、高い集合知の発揮を目指す際のダイバーシティ・マネジメントの概念図です。

賢いはずの個人が集まっても、集団浅慮に陥る場合や、全体としての発想が小粒化してしまうパラドックス(矛盾)を説明したものです。結論として、高い集合知のためのダイバーシティ・マネジメントには、ダイバーシティ(多様性)の正しい知識とそれを反映した行動様式を持ったリーダーの育成が必要です。

ダイバーシティ・マネジメントのためのリーダー育成プログラム、評価者研修などはこちら

執筆者
人材開発コンサルタント・ファシリテーター
株式会社GREEN 創業者・代表取締役 三森 暁江

教育研修のお問い合わせはこちらから

#ダイバーシティ#認知的多様性#統計学的多様性#表層的多様性#深層的多様性#先天的多様性#後天的多様性#文化的多様性#カルチュラル・ダイバーシティ#多様性の構造#ダイバーシティ・マネジメント#エンパシー#二次元多様性#文化圏#グローバルマインド#リベラルアーツ#異文化コミュニケーション#チームビルディング#リーダーシップ#ホスピタリティ#ペルソナ#内なる多様性#心理的安全性#集合知#インクルージョン#価値創造#イノベーション
このページの topへ